
―小松さんは本業が弁護士で、またアートコレクターでもありますが、ご自身も写真学校に通われていたんですよね。
高校生の頃は音楽をやっていて、カルチャーやファッションに興味がありました。『STUDIO VOICE』や『Switch』『POPEYE』などの雑誌もよく読んでいて、写真への憧れがありました。一方で、週刊誌などのグラビアも大好きだったので、将来はグラビアアイドルに優しいカメラマンになりたいなと思っていたんです。でも、その頃、ある事件がきっかけで弁護士を志すことに。無事に司法試験に合格し弁護士になったのですが、仕事ばかりの生活でするなかで自分にとって大切なものを追いかけたいと思い、一念発起して仕事をしながら土日と夜間で通える写真専門学校のプロカメラマンコースに通いました。
―その後、どういう経緯でコレクションを始められたのですか?
東京に来てからアーティストの友人ができて、アーティストが食べていくのがいかに大変かということを知りました。同じ時期に、アートの税制に関するロビイング活動のなかで、仕事としてアートギャラリーを訪れるようになったんです。そこで、写真集や雑誌で見ていたような写真家の作品が、自分でも買えるということを知りました。写真を勉強していたので作品撮りもしていたのですが、ギャラリーで写真を見るようになったら、当然自分で撮ったものよりもよく見えて。自分は、仕事とコレクションでアート業界に関わるほうが向いているし、楽しいなと思いました。
―2階のベッドルームは写真作品でいっぱいですね! はじめて購入した写真作品は?
自分のコレクションとして意識して買った最初の作品は森山大道さんのキャンバスに刷られたシルクスクリーンですね。エディション1だったこともあり、「これは!」と思い、オークションで競り落としました。そこからは、ギャラリーに行くと「小松くん、写真あるよ」と声をかけてもらうこともあったりして、転がるようにコレクションが始まりました。
―そのあとニューヨークに行かれたんですよね。
2014年から2年間ニューヨークで過ごしました。文化政策や海外の美術館との仕事など、アートに関する仕事が増えてきて、海外はどうなっているのか知りたいと思い、ファッションやアートなどのクリエイティブの領域に強いニューヨークのロースクールへ留学しました。その頃は、リチャード・プリンスの作品に関連する訴訟が次々と起こっていて、インスタグラムを題材とした「New Portrait」が発表された時期とも重なっていたんです。この作品における著作権のあり方については学内でも話題になっていたので、友人ともよく議論しました。アートと法律がすごく近い時期に留学できたことはとてもよかったと思っています。
―ニューヨークと日本のアート業界に、コレクターとしてどのような違いを感じましたか?
MoMAやMETのキュレーターと仲良くなって、アート税制の話を聞く中で「自分は写真のコレクターだ」と話すと、彼らに「誰の作品をどういう意味のなかで持っているのか?」と聞かれるんですよね。その頃は、ただ好きで森山さんや荒木さんを買っていただけだったので、コレクションの意味やルーツについて話すことができなかったんです。「森山好きだったらあの人も好きなのか?」「荒木持ってるならあれも買ってるか?」と聞かれても全然ついていけなくて。それで、コレクションを線で結べるようにしなければいけないんだな、と考え始めたんですが、それからしばらくはいいなと思ってもコレクションの紐付けのことを考えすぎて新たに作品を買いにくくなってしまったんです。
―いまは作品を購入されていますよね。その状態はどうやって打開されたんですか?
共通の知人を通じてロバート・フランクと知り合う機会があり、彼の自宅には3 、4回ほど行かせてもらいました。そこで、繰上和美さんに同行してロバート・フランクが北海道で撮った写真を見せてくれたんです。そのなかに、プロレスのポスターを撮影したものがあって。自分はプロレス好きの両親の影響でプロレスが大好きだったので、大興奮して「三沢はエルボーが必殺技で、スタン・ハンセンにこの後勝つんだよ!」と話したのを覚えています。彼自身はプロレスには全く興味がなかったようでなんとなく撮っただけみたいなんですけど(笑)。そしたら、「この写真はお前が持っていたほうがいい」っていって譲ってくれたんです。
―今年亡くなられたばかりですが、あの伝説のロバート・フランクと交流があったとはすごいですね!
そこで、自分の趣味であるプロレスと写真がロバート・フランクの作品を通してつながったんですよね。その頃、また別のアーティストから作品を譲り受けることもあったので、自分のコレクションは、持っているものとしてはバラバラに見えるけど、自分のなかでストーリーや作品同士のつながりが生まれるようなかたちがいいんじゃないかと思えたんです。だから、ロバート・フランクとの出会いが自分のコレクションの方向付けのきっかけになっていますね。
ロバート・フランクは、「ストリートや街の人を撮っているとよく法律上の問題になる。ジュンヤみたいに写真家の話がわかる弁護士にはこれまで会ったことがない。お前のことを世界中の写真家やアーティストが待っているから頑張れ」といってくれたんです。ますます「頑張ろう!」と思えましたし、写真家やアーティストと対等な関係でいられるという意味で、弁護士でよかったと思いました。それで、そのときに写真を撮ろうぜという話になり、チェキで撮ったのがこの写真です。
―それでロバート・フランクの写真を隣に飾っているんですね。
そのときにロバート・フランクが、繰上さんを撮影した写真を見せてくれたので、逆に繰上さんがロバート・フランクを撮った写真があるんじゃないかなと、思ってはいたんです。最近、5年越しでロバート・フランクの自宅で繰上さんが撮ったロバート・フランクの写真を買いました。この場所は私も訪れたことがあったので、懐かしくもあって。タカイシイギャラリーでのオープニングの時に繰上さんとお話ししたら、「神様が世界を見下ろしているみたいなんだ」とおっしゃっていたのが印象に残っています。
―ほかのコレクターの方のコレクションの違いはどのようなところにあると思いますか。
私の場合は親しくなってから作品を買うことが多いですね。自分にとっては作家と話すことがコレクションを広げていくきっかけになると感じています。例えば、ロバート・フランクが森山さんについてもよく話をしていたのでつながりを感じたし、彼と話していなかったら繰上さんの写真を買うことにもなっていなかったかもしれません。
―ほかにも、親交があってコレクションしている作家がいるとか。
アントワン・ダガタが日本に来ていたときに、森山さんのことを話していたんです。その後、展覧会のオープニングパーティーでお話しする機会があって、そうしたら、「パリフォトでいままでの集大成のような写真集を出すイベントをするから、パリに来てよ!」って軽くいわれたんです。せっかくなのでパリフォトに行ってイベントで写真集を購入したんですよね。彼はそのイベントには遅刻して来なかったんだけど(笑)。で、イベントのあとにダガタに会ったら「本当に来たの!?すごく嬉しい!」と喜んでくれて。「写真集買ったよ、よかったよ」という話をしたんです。そうしたら、帰りがけに呼び止められて、70ユーロを現金で渡されたんです。「俺はお前に写真集をプレゼントしようと思ってたから、これを受け取ってくれ」といわれた思い出があります。コレクションでいえば森山さんとのつながりもあるし、それ以来追いかけている作家のひとりですね。
―若手の写真家の作品も購入されていますよね。
はい。コレクションしている若手の写真家に関してはほぼ全員知り合いです。ニューヨークを拠点に活動している今坂庸二郎とはすごく仲が良いです。8×10の大判フィルムカメラを使ってランドスケープを撮影している写真家で、サイズが大きく高精細なプリントが特徴です。ニューヨークでは、彼の制作現場に何度も訪れたので思い入れの強い作品です。山谷佑介も、展覧会のオープニングで出会って仲良くなったのをきっかけに作品を購入しました。
―小松さんがハブになって、コレクションがツリーのようにつながっていってるんですね。
人生を掛けてひとつの展覧会や図録を作るような意識で、自分のコレクションを作っています。作品の裏にある文脈や批評など、テキストの勉強をすることも楽しんでいます。同時代の作家をコレクションする楽しみは、自分がハブになったり、自分の持っている作品同士がハブになってコネクションができるところです。ニューヨークから帰ってきたときに、ファッションデザイナーと偶然仲良くなり、荒木さんとファッションブランドのコラボレーションがパリコレで実現したこともありました。コレクションが単なるコレクションとしてだけではなく、友人の輪を広げたり、別の分野にもつながっていくというのがすごく面白いところだし、相互に影響し合える関係を作れるのは楽しいなと思います。
―メディアを問わず幅広いコレクションをお持ちですが、小松さんにとって写真をコレクションすることの魅力とは?
額装することで写真の見え方はすごく変わるので、自分の好きな額や仕上げ方を選ぶことのおもしろさも感じています。日本の写真界には、ほかのメディアに比べて世界で注目されている高いレベルの写真作家がたくさんいますよね。しかも、若手から大御所まで、幅広く評価が高い。そういう人たちの作品が実は買いやすくて、しかも交流できるというのは大きい。日本の写真は、国内のアートマーケットでももっと注目されていいんじゃないかと思います。
からの記事と詳細 ( アートコレクター/弁護士・小松隼也「弁護士で、写真ファンで、グラビア好き。アートのある人生の楽しみ方とそのミッションとは?」 | ARTICLES - IMA ONLINE )
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