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Saturday, November 28, 2020

無念でしかない。プエルトリコの電波望遠鏡、崩壊の危機を経て閉鎖へ - GIZMODO JAPAN

juraganluempang.blogspot.com

地球と宇宙をつないだ輝かしい歴史に、幕が下りる。

四国の半分ほどの面積を持つプエルトリコ島は、そのほとんどがうねるような山々で形成され、緑深き熱帯雨林に覆われています。その北西に位置するアレシボの山あいに、かつて世界一大きかったアレシボ電波望遠鏡が57年間ジャングルの上にそっと身を横たえてきました。

そのアレシボ電波望遠鏡が、いまや崩壊の危機に瀕しています。主鏡の上に吊り下げられたプラットフォーム(受信機などを設置)が落下する危険性を重くみた当局は、11月19日に望遠鏡の運営停止と解体を発表しました。そして今、世界中の天文学者たちがアレシボを失った後の世界に想いを馳せ、憂いを共有しています。

憂いているのは米GizmodoのGeorge Dvorsky氏もご多分にもれません。今年の8月10日にアレシボ望遠鏡の補助ケーブルが断線して落下し、主鏡に30メートル超の傷跡を残したとき以来取材を続けてきた彼でさえ、まさか運営停止に追い込まれるとは思っていなかったそうです。

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Image: NIAC via Gizmodo US

しかし、不運は続きました。11月6日にはメインケーブルも断線し、ふたたび主鏡に破損が生じました。主鏡の137メートル上空に吊り下げられているプラットフォームの重さは900トン。そのプラットフォームを支えているケーブルもひどく劣化していることがわかり、もはやこれ以上事故があった場合にプラットフォームの落下を免れない状況が判明しました。

そして運命の11月19日、アレシボ天文台の運営を任されている全米科学財団(NSF)が記者会見を開き、アレシポ電波望遠鏡の終わりを告げました。

Image: Arecibo Observatory

知らせを受け、Dvorsky記者は「臓腑をえぐられる思いだった」と書いています。

NSFが開いた記者会見では、プラットフォームがいつ落下してもおかしくないことから人的被害が懸念されるため、今後主鏡を含めた電波望遠鏡全体を計画的に解体していくことが発表されました。ただし、LiDAR施設やビジターセンターを含むアレシボ天文台そのものは存続していくことに。

アレシボ天文台では今後も引き続き科学的探究が営まれていきます。しかしながら、その最大のアセットであった電波望遠鏡が失われてしまえば、科学的にも、文化的にも耐えがたい損失になるだろうとDvorsky記者は書いています。

アレシボ電波望遠鏡はこれまで数々の科学的大発見の場を提供してきました。世界に先駆けての連星パルサーの発見はノーベル物理学賞の栄誉が与えられた偉大な成果でした。金星の詳細な地図を描き出したのもアレシボの力あってこそ。初めての太陽系外惑星の発見も、重力波についての新たな見地も、地球を脅かしかねない小惑星の探知もすべてアレシボの功績でした。もちろん、地球外生命体に向けて「アレシボ・メッセージ」と呼ばれる電波シグナルを発信したのも大きな貢献でした。

Dvorsky記者は、彼と同様にアレシボ電波望遠鏡ロスを感じている科学者たちに、今の率直な気持ちを語ってもらっています。以下、科学者たちの想いのこもったメッセージの数々をどうぞ。


Jill Tarter

天文学者、地球外知的生命体探求者。映画『コンタクト(1997年)』でジョディ・フォスター演じるサイエンティストのモデルとなった人物

私は1978年からずっとアレシボに通い続けてきました。これまでの数十年間でアレシボ電波望遠鏡に特化したハードウェアを構築したり、それ以上にたくさんのソフトウェアを開発したり、アレシボにもともと想定されていなかったような動作を要求するため、コントロールシステムをいじったりもしました。

アレシボは現代工学が成し遂げた素晴らしい功績であり、科学に従事する馬車馬であり、常にエキゾチックなオーラを失いませんでした。何度訪れても感じたあの不思議な高揚感…、まわりのジャングルでは絶えずカエルの合唱が響き、亜熱帯の森の甘い香りが鼻腔をくすぐり、地元のロン・デル・バリリト(プエルトリコ最古のラム酒)、コンプレッサの低い唸りが特徴的な「グレゴリアン・ドーム」(プラットフォームからぶら下がる球体の設備)、主鏡の下をぐるりと一周するジョギングルート、そこに咲き乱れる小さなランの花々。VSQ(研究者用の宿泊施設)からプロジェクト・フェニックス(地球外知的生命体探査プログラム)の夜勤に出かけるときに見た森の木々の上をかすめていくオリオン座…。

そして何より、プラットフォームに立って島全体を見渡すあの絶景。

でも一番心に残っているのは天文台のスタッフのみんなと、地元研究者のみなさんです。本当に仲がよくて、最高の技術的サポートを提供してくれましたし、おどり疲れるぐらい楽しいパーティーを開いてくれました。

この科学界のクイーンのようなアレシボがなくなってしまうのはとても哀しいです。これまでどんな強大なハリケーンにも耐えてきましたが、経年劣化には抗えなかったようです。

Image: Arecibo Observatory

Avi Loeb

ハーバード大で歴代最長の天文学部部長を務める物理学者

セミナーがあって、ちょうどアレシボには2016年夏に家族と一緒に行きました。施設内を巡る特別ツアーを組んでくれて、そこでアレシボの口径が305メートルになったのはちょっとした数字のエラーからだったと教えてもらいました。そのおかげで、アレシボは世界一大きな電波望遠鏡として何十年も君臨し続けたわけです。キャリブレーションを正しく設定し、フル稼働するまでに10年かそこらかかったとも聞いています。

アレシボを廃止するというNSFの決断は今後の電波天文学にとって大きなロスとなるでしょう。アメリカの電波天文学コミュニティは、今後どのように電波天文学において国際的なリードを保てるか、新しい戦略を練らなければなりません。アレシボ亡き後、直径500メートルにして地球上最大の電波望遠鏡であるFASTを保有しているのは中国ですから。

Image: Arecibo Observatory

Anne Virkki

アレシボ天文台のレーダー科学者

アレシボ天文台には57年間の科学的発見の歴史があり、しかもその発見は天文学、惑星科学、宇宙・大気科学など様々な分野に及び、ノーベル物理学賞賞受賞にも至っています。

最初のケーブルが落下する直前には2020 NK1と呼ばれる小惑星を観測しました。地球と接触する確率が比較的に高かったので注視し、NASAにデータを提供したところ、最終的にはリスクは低いとの判断が下されました。

何百人、ひょっとしたら何千人という学生たちがこの天文台で研鑽を積み、そしてそれ以上に多くの人々がこの天文台の存在そのものにインスパイアされてきました。ここで働いたことがある人たちにとって、アレシボでの経験はなにかとてつもなく大きなものの一部になったような感覚でした。

ケーブルこそは損なわれたものの、望遠鏡自体の科学的な意義は健在ですし、世界で現存しているどの電波望遠鏡にも替えがたい価値があります。そして、アレシボがなくなった時、その不在はすべてのプエルトリコ人の心に大きな空白を残し、国民的誇りはかげり、教育の機会は失われ、あるいは財布の蓄えさえも減ってしまうでしょう。アレシボは長年プエルトリコの経済に貢献してきましたから。

Image: Arecibo Observatory

さらに、Virkkiさんは政府機関とは関係のない一個人の立場から、こんな感情も吐露しています。

アレシボの停止と解体は、どの政府機関が認めているよりもはるかに甚大なロスとなるでしょう。NASAのGoldstone Solar Sytem Radarにはアレシボならばできたことをすべて継承することは無理です。私個人としては、アレシボは職場というより生活する場所に近いものがありました。ですから、解体するとのNSFの判断は、どこかの巨大企業に高速道路を建設するという名目で長年住んだ家を撤去されるような気持ちです。解体だけが選択肢だったはずはありません。

ちなみに、Virkkiさんはアレシボ電波望遠鏡を使って今後小惑星アポフィスを研究しようとしていたそうです。アポフィスと言えば、来年地球近くに飛来し、さらに2029年には非常に近くまで接近してくるリスクを秘めた天体。アレシボ電波望遠鏡を使っての研究は叶わなくなりましたが、ほかの場所での研究の継続が切望されます。

Image: Arecibo Observatory

Andrew Siemion

バークレーSETI研究センター長、天体物理学者

これまでアレシボ電波望遠鏡がSETI(地球外知的生命体)探査へ果たしてきた役割を過大評価することは難しいでしょう。それだけアレシボはSETIに関する複数のプロジェクトを同時進行で支えてきましたし、プロジェクト・フェニックス、SERENDIP、SETI@Homeなどが恒星間へメッセージを送るための通信手段となってきました。「アレシボ・メッセージ」もそのひとつです。さらに、アレシボのレーダー機能を通じて、地球上通信システムの可検出性の基準を確立するのにも貢献しました。

また、アレシボは科学的研究に役立ってきただけでなく、世間一般のSETIに対する考え方にも大きく影響してきました。数限りないドキュメンタリー、書籍、そして『コンタクト』を含む映画に取り上げられてきただけでなく、電波天文学会の育成においても60年近くにわたって貢献してきており、ここでトレーニングを積んだ電波天文学の学生は実に数百人に及びます。ここで指摘したいのは、電波望遠鏡施設によってはやや保守的で、学生たちに直接機材を触らせなかったりするところもあるのですが、アレシボは常にオープンで協力的な姿勢を保ち続け、どんな「突拍子のないアイディア」にもオープンでした。この根本的にオープンな思想がアレシボの成功、そしてSETIを研究するコミュニティにとって唯一無二の存在感を育むのに大きく関わっていたのだと思います。

世界中で訪れたことのある電波望遠鏡のうち、アレシボは人類の創造力と探究心の魅惑的な象徴として群を抜いています。そもそも望遠鏡にたどり着くまでの冒険が魅惑的なのです。ジャングルの中の細いくねくねした道をたどっていくとやがてゲートが現れ、そのさらに奥にアレシボへの道が続いている。その後、制御棟までの道なりを車で進む間にも望遠鏡は視界から隠れています。そしてついに展望台へと上がり、その大きな窓から外を覗いたとたん、視界いっぱいに濃い緑にふちどられた望遠鏡の景色が広がっていく……、その壮大さを語る言葉すらありません。

私は未来の学生たち、冒険者たちのことを思うと残念でなりません。この素晴らしい冒険をもはや体験できなくなってしまった後世の人類のことを思うと。

Image: Arecibo Observatory

Victoria Kaspi

マギル大学所属の天体物理学者。パルサー研究の第一人者。

アレシボの存在はこれまで40年間のパルサー研究において圧倒的に不可欠でした。人類初の連星パルサーの発見がノーベル物理学賞に輝いたこと然り、アインシュタインの相対性理論を検証する歴史的な実験も然り、アレシボは宇宙に存在しているパルサーという天体に対しての理解を深める上でかけがえのない貢献を果たしてきました。

私は同僚や生徒たちと共にアレシボを使わせてもらって、この10年間で何百という数のパルサーを発見してきました。その中にはこれまで観測された中でもっとも相対論的な連星パルサー系や、偏心した連星ミリ秒パルサーや、aLIGOに検知された重力波の謎を解く鍵となるシステムなどもありました。

実のところ、NSFが運営停止を発表する数日前にも、私の研究室に所属している博士課程のEmilie Parentがアレシボのデータから新しいパルサーを次々と発見していたんです!稼動できる最後の瞬間まで、アレシボは特異でかけがえのない発見マシンでした。だからこそ、この顛末には苛立ちを感じずにはいられません。


NSFが開いた記者会見で、米GizmodoのDvorsky記者は今後電波望遠鏡の再建が可能かどうかを質問してみたそうです。しかしながら、答えは芳しくありませんでした。

それでも、アレシボ天文台そのものは今後も存続していきますし、今後新たな研究成果にも期待できます。そしてアレシボ天文台があるかぎり、アレシボ電波望遠鏡が復活する希望もあります。

Dvorsky記者はこう呼びかけています。

科学者、学生、それ以外にも電波天文学のあゆみに関心を抱く一般市民が一丸となれば、新しい電波望遠鏡を設置することだってできるはず!この試練をチャンスに変えていこうじゃないですか。アレシボの物語は、まだ終わっちゃいませんよ

Image: Arecibo Observatory
Reference: Arecibo Observatory

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