Mac用Apple Siliconとして第1段のM1チップを搭載したMacも、もはやそれほど物珍しいものではなくなったかもしれない。しかし、その本当の性能や、その他の特徴については、まだまだ知られていない部分が多いだろう。よくあるベンチマークテスト専用アプリを使った性能比較や、フルHDビデオのWi-Fiを使った連続ストリーミング再生におけるバッテリーの持続時間については、すでにそれぞれ別記事で報告した通りだ。
今回は、一般的によく利用されているアプリを使って、さらに実用的な性能を評価することにした。それとても新しいM1搭載Macのポテンシャルをすべて明らかにするものではないが、M1のパフォーマンスについて、また別の角度から光を当てることができるはずだ。
今回のテストに使ったアプリは、どれもベンチマーク専用アプリではない。それぞれ実用的な目的で日常的によく使われているものばかりだ。しかも今回は、無料で使えるアップル純正アプリを選んだ。ほとんどのテストは単純なもので、簡単に再現できるはず。読者が普段使っているMacと性能を比較するのも難しくないだろう。
選んだアプリは、ウェブブラウザーのSafari、圧縮ファイルを展開するアーカイブユーティリティ、アプリ開発に使うXcode、Xcodeで開発したiOSアプリをMac上で動作させるSimulator、iMovieの5種類だ。このうちSafari、アーカイブユーティリティ、iMovieはすべてのMacに付属している標準アプリ。OSだけをクリーンインストールするとiMovieはインストールされないが、いつでもApp Storeからダウンロードしてインストールできる。Xcodeとそれに付属するSimulatorは一般ユーザー向けのアプリとは言えないが、これも誰でもApp Storeからダウンロードしてインストールできるようになっている。
今回のテストでも、Apple Siliconを搭載した新しいMacの3機種に、2020年に発売されたインテルCPU搭載のMacBook Airを加えた4機種について計測し、評価している。ただし、Safariのテストについては、参考までに、2020年に発売されたiPad Pro 12.9インチモデル(第4世代)も加えた5機種で評価した。
Safari上でのJavaScriptの実行速度テスト
多くのユーザーにとって、Mac上でもっとも利用頻度、時間の長いアプリは、ウェブブラウザーだろう。Mac上で動作するウェブブラウザーには、少なくとも片手では数え切れないほどの種類があるが、今回は純正のSafariに絞ってテストすることにした。目的は、最速のブラウザーを探すことではなく、M1搭載Macの性能を評価することだからだ。
言うまでもなく、最近のウェブサイトではJavaScriptが重要な役割を果たしている。サイトがアプリのように動くロジックを記述したり、複雑なグラフィック効果を実現しているのもJavaScriptの働きによる。そこで、ブラウザーのJavaScriptの動作速度を評価するページを掲載しているBrowserBenchのサイトにある、JetStream2のページを利用してテストし、評価することにした。
このテスト内容は、Geekbenchにも似たような小さなプログラムの集まりだが、すべてJavaScriptで書かれていて、ブラウザーの中で動作しているという点が異なる。ページには、テスト結果のスコアが表示される。
これ以降、すべてのテストでは、テスト結果の数字に加えて、インテルCPU搭載のMacBook Airの速度を1.0としたときの、各マシンの速度の倍率も示している。もちろん倍率の数字が大きいほど速いということになる。また、このテストに限っては、iPad Proの12.9インチモデルの結果も示す。
このテスト結果では、Airを1.0とすると、M1搭載Macは、1.7〜1.8の倍率となった。2倍まではいかないが、かなりの速度向上が見て取れる。また、A12Z Bionic搭載のiPad Proも、ほぼ同時期に出たMacBook Airの1.3倍となっていて、Apple Siliconのポテンシャルが暗示されていたことがわかる。
圧縮ファイルの展開にかかる時間を計測
次のテストは、11.44GBと、かなり大きな圧縮ファイルを「アーカイブユーティリティ」で展開するのに要する時間を計測する。アーカイブユーティリティは、Launchpadからも選べないし、「アプリケーション」フォルダーにも入ってないが、zipなどの圧縮ファイルを展開する際には自動的に起動される。
アプリやOSのアップデートは、圧縮された状態でダウンロードされるので、サイズの大きなアップデートの場合、ダウンロードが終了してからアップデートが始まるまでに「準備中」の時間が長いのに気付く。この間に圧縮ファイルの展開が実行されているので、この処理時間も普段の使い勝手に影響する。
ここでテスト用に選んだファイルは、実は次のテストで使うXcodeを圧縮したもので、デベロッパー向けのサイトから圧縮状態のままダウンロードしたもの。各マシンごと展開に要した時間を計測し、やはりAirの時間を1.0として速さの倍率を示している。この場合時間が短いほど高速だ。
結果は、どのM1マシンも、インテルAirの約3.9倍となった。これは体感的にもかなりの違いだ。後半のテストでも、この4倍前後という数字が出てくる。インテル搭載のAirとの潜在的な最大速度の違いを示す数字のように感じられる。
このテストは、一般ユーザーよりも、デベロッパー向けのものだが、今回のテストの中でも、もっとも複雑な処理なので、他分野でも複雑な処理を実行するアプリの動作速度の参考になるだろう。このテストでは、アップルが無料で公開している「SwiftShot: Creating a Game for Augmented Reality」というARアプリのサンプルコードをビルドするのにかかる時間を計測した。
この図では、iPhone Simulatorを起動してアプリが動作した状態を示しているが、時間の計測はアプリの動作は含まず、Xcode内で純粋にビルドするのに要する時間だけを計測した。やはりAirの時間を1.0として速さの倍率も併せて示している。
この結果を見ると、Airに対してM1マシンは、だいたい2.5〜2.8倍程度の速度となっている。アップルはApple Eventのビデオの中で、Xcodeのビルド速度が3倍になったと表明しているが、ほぼそれに近い数字が出ていると言える。
iPhoneシミュレーターの起動時間を計測
XcodeによるiOSアプリ開発の際には、実機でテストする前に、Xcodeに付属するiPhoneシミュレーター上で動作を確認するのが一般的だ。そのためのSimulatorアプリは、これまでインテルCPUを搭載したMacで起動する際にかなりの時間がかかるというという印象があった。今回のテストでは、シミュレートするiPhoneとして「iPhone 12 Pro Max」を選び、中身を消去して再起動(Erase All Content and Settings...)するための時間を計測した。
結果は、今回のテストの中で、インテルAirと各M1マシンの差がもっとも大きなものとなった。ざっと4倍以上だ。iPhoneシミュレーターは、いったん起動すれば、ビルドしたアプリを転送して動作を確認するのには、それほど時間はかからない。しかし、シミュレートするiPhoneの機種を変更すると、電源オフの状態から起動することになるので、それなりの時間がかかる。これまではイライラしながら待つ必要があったが、それが4倍速くなるのだから、アプリの開発効率も向上する。
iMovieによる4Kムービーファイルの「共有」に要する時間を計測
ちょっとしたムービーの編集や、フォーマットの変換のためにiMovieを利用する人も多いだろう。その際にいちばん時間がかかるのは、ムービーファイルを書き出す処理だ。iMovieでは、これを「共有」と呼んでいて、メニューからさまざまなファイルフォーマット(解像度)を選択して書き出すことができる。
このテストでは、長さがちょうど50秒の4K(3840×2160)ムービーファイル(H.264、AAC形式)を、iMovieのメニューで言うところの「Facebook用」として書き出す時間を計測した。結果のムービーは、「SD 480p(640×360)」のフォーマットで、サイズは13.4MBほどになる。ちなみに元のファイルサイズは125.6MBだ。
結果は、どのM1マシンでも、インテルAirのちょうど4倍の速度となった。これもはっきりと体感できる速度向上だ。圧縮ファイルの展開もそうだったが、比較的大きなデータの移動をともなう処理では、インテルAirの4倍というのが、だいたいの目安になりそうだ。これはストレージの読み書きも含めたM1搭載機の総合的な能力の高さと判断しても良さそうに思える。
ただし、M1搭載機の性能については、ちょっと気になる点もある。まだ結果が確定していないため、今回は示さないが、さらに大きな(10GBを超えるような)データの移動を伴うような処理では、8GBというメインメモリーの大きさがネックになっていると疑われるような結果も見られる。これについては、16GB搭載機を入手できた時点で、改めて検証して報告したいと考えている。
からの記事と詳細 ( アップル「M1版」MacBook Air、MacBook Pro、Mac miniのパフォーマンスを実アプリベンチでチェック - ニコニコニュース )
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