「アート」とひと口に言ってもその幅は広く、過去、現在、未来と続く、非常に奥深い世界だ。各界で活躍する仕事人たちはアートとともに生きることでいったい何を感じ、何を得ているのか。今回は、アートコレクターの桶田俊二・聖子(あさこ)夫妻の想いに迫る。【特集 アート2023】
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右から:花井祐介、ロッカクアヤコ、TIDE、水戸部七絵、その下の立体はマイケル・ケーガン、Backsideworks.、仲衿香(なかえりか)の作品。ビューイングルームには現代アートが並ぶ。
いいコレクターを増やして、アート業界を活発にしたい
アートコレクターの桶田俊二・聖子(あさこ)夫妻の自宅に一歩足を踏み入れると、まず目に飛びこんでくるのは奈良美智(よしとも)の絵画と、江戸時代の船簞笥の上に置かれた李朝の白磁立壺(たちつぼ)。時代も国もバラバラのモノたちが絶妙に調和して、その家の扉を開けた者を圧倒する。
「古いモノと新しいモノをかけ合わせて生まれる化学反応のような何か。それを見つけたくて、コレクションをしているようなものですよ」(俊二氏)
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玄関を入ると正面に見えてくる奈良美智作品『Study-2』と李朝の白磁立壺。壺が載っているのは、江戸時代の船簞笥。
桶田夫妻は23年前に骨董の収集を開始。中国の骨董や、魯山人などさまざまに集め、深く骨董の世界にのめり込んでいった。
「けれど2010年に、偶然見た草間彌生さんのドキュメンタリーで衝撃を受けて」(聖子氏)
以降、今日までの13年間、現代アートのコレクションを日々増やし、それまで集めていた骨董と時空を超えた展示コラボレーションを生みだし続けている。
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玄関には、草間彌生の『パンプキン』(左)、カウズの弟子であったジョシュ・スパーリングの立体、その下にはやきものの街、常滑(とこなめ)の大壺。右は村上隆。©2013 Takashi Murakami/Kaikai Kiki Co., Ltd. All Rights Reserved. Courtesy Perrotin Courtesy of the artist and Perrotin, Oketa Collection.

草間彌生の「インフィニティネットシリーズ」がリビングの中央に。
どれだけ早く才能を見つけられるか
「現代アートの流れは、骨董と違いスピードが早い。3年前に購入した作家の作品が、今では人気で手に入らない、なんてことはよくあります。そしてまた、現代アート業界は一極集中の世界。一度人気になればその人の作品を誰もが欲しがるようになる。
逆に言えばそれ以外のアーティストは厳しい状態だということ。だからこそコレクターが、才能あるアーティストを見つけ、新しいムーブメントをつくる必要があるんです」(俊二氏)
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サーファーで画家のジャン・ジュリアンの絵と立体。その下には加守田章二の壺。

永井博の作品に合わせるのは、北大路魯山人の作。中段は雲錦鉢(うんきんばち)、下段は武蔵野鉢。奥の盆は室町時代の根来塗(ねごろぬり)。

面取りをされた珍しい李朝の瓶が、同じく李朝の棚に。手前には現代作家クララ・クリスタローヴァと、奈良美智の立体作品。
アート業界活性化のため、自身の「見る目」を養うためにしていること、それはシンプルだが「多く見ること」に尽きる。
「数を見て判断基準をつくり、自分のレベルを少しずつ上げていくしかありません。李朝の白磁の壺でも、形や肌艶、シミの出具合など、いいモノと悪いモノでは雲泥の差です。それが見分けられるようになるには、ひたすら数を見ること。また現代アートは、いずれ多くの人が欲しがる作品をどれだけ早く見つけられるかも、鍵になります」(俊二氏)
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現代アートの多いビューイングルームの一角には、骨董の壺たちが置かれている。
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河井寛次郎の花器。背景に見えるのは、ゲルハルト・リヒター。ソファの横には李朝の粉引きの扁壺(へんこ)とっくりと螺鈿(らでん)。
例えばロンドンで活躍するアーティスト、ジャデ・ファドジュティミ。この作品に惹かれた桶田夫妻は無名だった彼女の作品を購入。そしてその後2019年にジャデはロンドンのテート・モダンに史上最年少で作品が収蔵されることになった。
「私たちが好きなのはどの作品を見ても、一瞬でその人の作だとわかるような特徴ある作家。そしてそういう方はすぐ世間に注目されるんです」(聖子氏)
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ジャデ・ファドジュティミの作。
毎月海外のアートフェアやオークションに出向き、日本各地のアートフェアにも飛び回る。東京にいる間は、六本木、神宮前、天王洲とギャラリーエリアに通い詰める毎日だ。さらに2019年4月から所蔵作品をセレクトし展示するコレクション展も行っている。アートのため多忙を極める夫妻だが、そこには強い使命感がある。
「日本はその経済力に対して、アートマーケットがとても小さい。私たちはいいコレクターを増やしてアート業界を活発にしたいんです。それは日本経済にも活気を与えることにもなる。だからコレクション展で多くの人に作品を見てもらい、もっとアートに興味を持ってもらいたい。骨董と現代を掛け合わせた展示もしていますよ。新しいことをすれば目立ちますし、関心を持ってもらえるのではと。
そしてここ1、2年は国内でもアート関連のイベントが増え、今までになく盛り上がってきています。微力ですが、その流れをつくる一端になれたらこんなに嬉しいことはありません」
骨董とコンテンポラリーを通して、時代とアートを見極めてきたふたり。そのコレクターとしての強い矜持が、いつか日本経済とアートを救うといっても過言ではない。

右上は山口歴(めぐる)、右下はマイケル・ケーガンの立体。棚の中の器と椅子はトム・サックスの作。左上は福岡の作家Backside works.。
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右の絵画はジュン・オソン、左はフェイス。下の立体は、左からメディコム・トイ社製 空山基(はじめ)×ダニエル・アーシャム×ベアブリックのコラボレーション作。青い立体はフューチュラ、スケートボードはバリー・マッギー、手前はLYの作品が並ぶ。
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SNSでも爆発的なフォロワー数を誇るスペインのホアン・コルネラの絵画と立体。
【Collector’s File】
収集歴
骨董23年。現代アート13年
収集のための海外渡航
平均年12回
最初に買った現代アート
草間彌生作品
コレクション展の開催回数
5回
作品を購入する決め手
ひと目惚れするかどうか
OKETA COLLECTION
桶田俊二・聖子/Shunji Oketa、Asako Oketa
ファッションビジネスに長年携わったのち、骨董収集をスタート。2010年から現代アートの収集も開始、同時に現在は盆栽のコレクションも行っている。2023年4月には表参道のスパイラルガーデンにてコレクション展を開催予定。
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