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Thursday, June 9, 2022

1300万円以上の価値あるレトロゲームが偽造品だったと判明、ゲームコレクターコミュニティに激震が走る - GIGAZINE


複数人のゲームコレクターが、ひとりの著名ゲームコレクターから偽物のレトロゲームを複数売りつけられたと告白しています。実際にどの程度の金額でゲームが売買されたかは明らかにされていませんが、もしも本物だった場合の市場価値は合計10万ドル(約1300万円)以上の価値があるとのことです。

Inside the $100K+ forgery scandal that’s roiling PC game collecting | Ars Technica
https://arstechnica.com/gaming/2022/06/inside-the-100k-forgery-scandal-thats-roiling-pc-game-collecting/

ゲームコレクターのエンリコ・リチャルディさんは、PCゲーム専門のコレクターとしてコミュニティでは広く知られている人物。同氏はTwitterアカウント上で定期的に希少価値の高いゲームのコレクションを自慢しており、同氏のコレクションはまさに「比類のないレベル」だったそうです。

The Taiwanese Lim. edit. 2000 copies of ULTIMA COLLECTION contains some the most beautiful trinkets ever created for an ULTIMA,the golden plastic card with embossed serial number as well as a crystal-like object with a chip displaying that same number enclosed inside. pic.twitter.com/9Wky67uZ3z

— Enrico Ricciardi (@Enric0Ricciardi)


そんなリチャルディさんからレトロPCゲームを購入したという少なくとも7人のゲームコレクターが、同氏が2015年から2022年5月までに販売してきたゲームには偽造品の疑いがあるものが数十個含まれていると指摘しています。なお、リチャルディさんは海外メディアのArs Technicaに対して「自分は偽造品の可能性を十分にチェックせずに無意識のうちに取引しただけの犠牲者である」と語ったそうです。


ゲーム収集の世界では任天堂のレトロゲームが数億円で取引されることがありますが、レトロPCゲームに限るとそれほど高額の取引はありません。それでも1970年代から1990年代にかけてのレトロPCゲームのうち、無傷のディスクや美麗なパッケージのものには数十万円を支払う人もいるそうです。ゲームコレクターによると、eBayのようなオークションサイト上でレトロPCゲームは毎日数百個も競売にかけられているとのこと。

Facebook上には6000人以上が加入しているレトロPCゲームコミュニティの「Big Box PC Game Collectors(BBPCGC)」があり、このようなコミュニティの中でゲームの取引を行う人々もいるそうです。インターネットオークションサイト上ではなくコミュニティ上で取引を行う理由は、「人と人とが関係を築くことができるため」が挙げられています。こういったコミュニティ上での取引の場合、知り合い同士の取引であるためすべてのゲームが正規品であるとほとんど疑いなく考えられているそうです。

しかし、2022年5月30日にBBPCGCのメンバーがリチャルディさんから購入したレトロPCゲームには偽造品が含まれていたことを証明する文書を公開しました。ただし、BBPCGCは偽造品はリチャルディさんが販売したものではあるものの、同氏がこれらの偽造品を作成したのかは「断言できない」と記しています。ただし、リチャルディさんが販売したレトロPCゲームが偽造品であることは明らかであるため、BBPCGCは「リチャルディさんがグループから退去するのに十分な根拠が揃っています」とも記しました。

BBPCGCの発表を受け、リチャルディさんから複数のレトロPCゲームを購入したという人物は、「これは私のコレクションの中心的な部分であり、珍しく高価なレトロPCゲームです。しかし、これらはウルティマやレトロゲームのコミュニティで有名な人物に騙されて売りつけられた偽造品であることがわかりました」とツイートしています。

This used to be the center pieces of my collection. Rare and expensive old games.
Now it turns out I‘ve been scammed and sold forgeries by a well known figure in the Ultima and tetrogames community. Along with many others#ultima #akalabeth @RichardGarriott pic.twitter.com/wuiAQPSuG2

— Dominus of Exult (@Dominus_Exult)


リチャルディさんはBBPCGCで長年モデレーターを務めてきた人物で、特に初期のウルティマやシエラエンターテインメントのPCゲームに関する幅広い知識を有するコレクターとして知られていました。匿名のPCゲームコレクターは、「コミュニティで有名な専門家のひとりとして信頼されており、多くの人々がモノを検証したり購入を検討したりするためにリチャルディさんに知見を求めてきました」と語っています。なお、リチャルディさんはウルティマの開発者であるリチャード・ギャリオットさんと彼が最初に立ち上げたゲームスタジオ・OriginSystemsの自伝である「Through the Moongate」でイラストを寄稿した人物でもあります。

このような経歴の持ち主であるため、「リチャルディさんがコミュニティを裏切るような行為を働くとは到底思えなかった」と匿名のゲームコレクターは語っています。また、別のゲームコレクターは「我々は友人でしたし、私はリチャルディさんのコレクションが素晴らしいものであると考えていました。そのため、自分に金銭的な余裕がある際には、リチャルディさんから個人的にゲームを購入し、その真贋については一切考えることがありませんでした」と語りました。

リチャルディさんが取引にかかわった偽造品のうちのひとつが、1981年にApple II向けにリリースされた「The Chambers of Xenobia」というPCゲーム。

1/ For some vintage games, the challenge is to find confirmation that they were ever released. Then there are a few games that have clearly been released, but for which no original copies seem to exist. The Chambers of Xenobia is the latter. pic.twitter.com/epoMM5yupQ

— A2Can (@A2_Canada)


リチャルディさんから「The Chambers of Xenobia」を購入したというBBPCGC所属のゲームコレクターであるステファン・ラクルさんは、保存目的で同作のディスクイメージを作成しようとしたところ、ロード画面に「Presented by the Data Killer.(提供はデータキラー)」と表示され、ディスクに保存されているのはオリジナルのクラック版であることが明らかになったと説明しています。


ラクルさんがリチャルディさんから購入したゲームは他にもあり、そのひとつが1980年にリリースされたApple II向けRPGの「Fracas」だそうです。このFracasにも「Pronto-DOS」と呼ばれるディスクオペレーティングシステムが含まれていたそうですが、このOSはFracasがリリースされた2年後の1982年に登場したOSであるため「これも偽造品である可能性が高い」とラクルさん。

ラクルさんは、手元に所有していた偽造品と思しき「The Chambers of Xenobia」と「Fracas」のデータをApple IIの専門家であるジョン・モリス氏に提供し、データの解析を依頼しています。モリス氏の解析によると、2つのディスクはどちらも同じツールを使用して同じデータソースから作成されたものであると判断できるそうです。

この他、ラクルさんがリチャルディさんから購入したという初期のリソース管理ゲーム「Santa Paravia and Fiumaccio」のカセットテープの場合、中に保存されているのはゲームのデータではなくジャンクノイズだけだそうです。


他にも、リチャルディさんが販売したレトロPCゲームには印刷物に「目立たないものの偽造の兆候がある」とのこと。リチャルディさんの偽造品で特に顕著に見られる特徴が、真っ白なはずの部分にシアンやマゼンタの小さな気泡によるドットパターンが印刷されているという点です。BBPCGCで偽造調査を行った専門家は、「単色印刷にはこのようなドットパターンが現れないため、これらはスキャンしたデータをプリントしたものである決定的な証拠です」と語っています。


他にも、ディスクに貼られたラベルが本物のもとの比べて形状が微妙に異なっているなどの特徴があるそうです。

偽造品の特徴として頻繁に見つけることができる特徴のひとつは、説明書やカバーの角がすべて折り曲げられているという点。これについてゲームコレクターのドミニク・ライカート氏は、「偽造品の多くは4つの角がすべて曲げられています。これは偽造者が誤って本物を販売したり、eBayなどで偽造品を買い戻し足りしてしまうのを防ぐための印であると思われます」と語りました。

データや印刷以外に偽造品を見分けるポイントとなるのが、印刷物に使用されている紙です。「The Chambers of Xenobia」の偽造品に付属している保護フィルターには「Fabriano」と書かれた透かしが入っており、これは何百年も存在するものの40年前のアメリカではあまり知られていなかったイタリアの高級製紙会社の名前です。

1980年代初頭に「The Chambers of Xenobia」のパッケージ印刷を担当したのはAvant-Gardeという小さな企業であり、「同社が印刷にFabrianoの紙を使用していなかったことは明らかです」とラクルさんは指摘しています。

なお、Ars Technicaがコンタクトを取ったゲームコレクターの多くは「リチャルディさんの販売したゲームがすべて偽造品というわけではない」と考えているそうで、偽造品を取り扱っていたことが明らかになった後でもリチャルディさんの信頼性は高いままであると指摘しています。

記事作成時点では偽造されたレトロPCゲームは、リチャルディさんが取引にかかわったものだけであるとされています。しかし、一部のコレクターはより広範囲に影響がおよぶ可能性を懸念しており、「今後さらに多くの偽造が行われると確信しており、残念ながら偽造がどのように発見されたのかという詳細部分よりも、さらに質の高い偽造品が登場する方に注目は集まるでしょう」と述べています。

「最も高い価格をつけるのは、最も古いゲームです。そして、古いゲームは基本的にパッケージ化されたもの、つまりはコピーされたものであるため、最も簡単に偽造できるものである傾向があります」とラクルさんは語っています。

なお、複数の偽造品を販売してきたリチャルディさんは、Ars Technicaに対して「この悪夢を体験した後、私はゲーム収集を辞めることに決めました。これまでに収集されたゲームコレクションについては、私が死んだら燃やすようにと妻に頼んでいます」と語っています。

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